日本脳炎ワクチン 受ける、受けない、どっちが安心

2005年06月07日10時44分

  

 「ワクチンを受けないのと、副作用とではどっちが危険」「接種のピークになぜ?」。5月30日、子どもに対する日本脳炎ワクチンの接種を勧めないよう求めた厚生労働省の緊急勧告に、波紋が広がっている。父母からは疑問や困惑の声が寄せられ、自治体は対応に振り回された。重い副作用の可能性があるとして事実上の中止を指示した内容だが、希望者には従来通り接種してよいとされたため、分かりにくい措置となった。

 ■「希望者のみ可」に戸惑い

 「このままずっと集団接種はなくなってしまうんですか」

 和歌山県海南市。今月1日と2日、3〜4歳児約250人を対象に集団接種を予定していたが、勧告を受け希望者のみ受け付けることを全員に速達で知らせた。翌日、担当課には父母からの問い合わせが数十件寄せられた。

 予定日の2日間に会場を訪れた親子は8組。職員から副作用について説明を聞き、6人が同意書にサイン、接種を受けた。そのうちの1人は「副作用の確率は低いし、日本脳炎になる方が怖いと思う」。

 例年6月から予防接種を本格化させる自治体も多く、その矢先の勧告に、現場は戸惑いを隠せない。

 予防接種の案内を今月1日に市報に掲載した福岡県久留米市。市報の配布が中止できず、接種を勧める「お知らせ」が10万3千世帯に届いてしまった。

 病院などに案内を配って父母への説明を依頼し、次回の市報に中止記事を載せるが、担当者は「あまりにタイミングが悪かった」。

 94年から、子どもの予防接種は学校などでの集団接種から医療機関での個別接種に変わった。だが、コスト面などから、集団接種を続ける自治体は少なくない。個別接種の態勢がない場合、希望者の受け入れ先も頭が痛い問題だ。

 埼玉県春日部市は「コストが倍以上になる」として、集団接種のみ。市医師会と相談して当面、「希望者も含め全面中止」を決めた。「地元で個別にできる態勢がない以上、やむを得ない」。強い希望があった場合は、隣のさいたま市の県立小児医療センターで受け入れてもらう予定だ。

 山口県美祢市では原則的に、小中学生に対しては集団接種しかしていない。1学期の終わりから2学期半ばに実施するが、今年度どうするか、結論は出ていない。個別接種が受けられる病院まで交通の便が悪く、「簡単には中止を決められない」と担当者は話す。

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 日本脳炎ワクチンの接種を、どう考えるか。専門家の意見をもとにQ&A形式でまとめた。

 Q 日本脳炎とは。

 A ウイルスを持つ豚からコガタアカイエカを介して感染します。感染しても大半は症状なく終わりますが、100〜1千人に1人の割合で発症すると高熱や頭痛などを患います。国立感染症研究所によると発症者の致死率は20〜40%で、特に子どもでは重い障害が残りやすいのです。

 Q ワクチン接種の勧奨をやめた理由は。

 A 今のワクチンは、ウイルスをマウスの脳で増やしてつくったものです。その際、異物が入る可能性があり、それが副作用として「ADEM」と呼ばれる脳脊髄(せき・ずい)炎を起こすと考えられています。91年以降、14人が接種後にADEMで健康被害認定を受けました。今年5月に被害認定された山梨県の女子中学生は従来より重症でした。安全性を高めた新しいワクチン開発のめどが立ったため、今回の勧告になったようです。

 Q もう接種を受けなくてもいいのですか。

 A 92年以降、国内の日本脳炎発症者は年間10人以下です。今年接種を受けるはずだった子が受けなくても、発症の可能性は極めて低いと考えられます。しかし、ウイルスは国内にいるので、免疫力を高めておく必要があります。長期間、ワクチン接種を停止すれば、再び流行する恐れがあります。また、豚の感染は西日本を中心に確認されており、人が感染する可能性には地域差があります。心配なら、これからも接種は受けられます。

 Q 接種した場合、副作用が心配です。

 A ADEMの発症は70万〜200万回の接種に1回とごくまれです。ADEMになると、接種後、数日〜2週間ほどで発熱や頭痛、けいれんなどの症状が出ますが、ほとんどは薬で回復します。